みなさんは「リトレーニング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
僕が初めて馬に乗ったのは、今から18年前になります。
そのときに騎乗した馬は、実は引退した競走馬でした。
当時の僕は、馬の品種の違いも、競走馬と乗馬の違いもよく分からず、
ただ案内された馬に言われるがまま乗っていただけでした。
しかし、乗馬を続け、馬の仕事に長く関わる中で、
「競走馬から乗馬になるまでには、大きな変化が必要だ」
ということを強く感じるようになりました。
その変化のために行われるのがリトレーニングです。

目次
リトレーニングとは「競走馬から乗馬への再調教」
リトレーニングとは、簡単に言うと再調教という意味です。
ここで言うリトレーニングは、
競走馬として走ってきたサラブレッドを、乗馬として育て直すことを指します。
競走馬と乗馬では、
求められる能力や役割がまったく違います。
- 競走馬:とにかく速く走る
- 乗馬:人を乗せて、安全に、ゆっくり動く
同じ馬でも、求められることは正反対と言ってもいいでしょう。
サラブレッドは「速く走るため」に生まれている
サラブレッドは、
レースで1着になることを目的に生産されています。
速く走るために、
- 血統が選ばれ
- 子馬の頃から調教され
- レースに向けて育てられます
その結果、身体の使い方も、気持ちの面も、
「速く走る」ことに特化した馬になります。
そのままの状態では、
人を乗せてゆっくり動く乗馬には向いていません。
そこで必要になるのが、
骨格(身体の使い方)と気性(心の状態)のリトレーニングです。
骨格のリトレーニング① 競走馬の身体の特徴
競走馬は、
身体を「縮める → 伸ばす」という動きを大きく使って走ります。
この動きを繰り返すことで、
スピードを生み出すことができます。
その結果、体重のかかり方は
前肢6:後肢4
くらいの割合になると言われています。
つまり、身体の重さが前の脚に多くかかっている状態です。
骨格のリトレーニング② 乗馬に必要なバランスとは
一方、乗馬で大切なのは
ゆっくり、安定して動くことです。
前肢に体重がかかりすぎると、
馬は前にバランスを崩し、自然とスピードが出てしまいます。
人間で例えると、
腕で全体重を支えて逆立ちしたまま走っている状態です。
これでは、安定してゆっくり動くのは難しいですよね。
逆に、後肢に体重がかかると、
馬は落ち着いて、ゆっくり動きやすくなります。
人間で言えば、
しっかり足で立っている状態です。
競走馬にとって、
この「後肢に体重を乗せる」という感覚はとても難しいものです。
だからこそ、
後肢を使える身体づくりが、乗馬への大きな第一歩になります。
気性のリトレーニング① 競走馬に必要な闘争心
次に、気性(性格や気持ち)の面を見ていきましょう。
競走馬がレースに勝つためには、
闘争心が欠かせません。
- 他の馬に負けたくない
- 前へ前へ行こうとする気持ち
こうした気性は、
- 血統の段階で選ばれ
- 調教によってさらに強くされます
競走馬にとっては、とても大切な要素です。
気性のリトレーニング② 乗馬ではマイナスになることも
しかし、その闘争心が、
乗馬の世界ではマイナスに働くことがあります。
たとえば、
- 他の馬に攻撃的になる
- 興奮しやすく暴れる
- 初心者が乗れない
競馬は、
強い馬だけが生き残る世界です。
でも、乗馬クラブには、
- 子ども
- 大人
- ご高齢の方
本当にさまざまな人が来られます。
乗馬に求められるのは「誰でも扱えること」
乗馬で求められるのは、極端に言えば、
- 誰が触ってもおとなしい
- 人を乗せても落ち着いている
- 指示に素直に従う
こうした性質です。
速さや強さよりも、
安全であることが何より大切になります。
そのため、競走馬として培われた気性を、
少しずつ「落ち着いた方向」へ変えていく必要があります。
競走馬から乗馬へ転用する難しさ
「誰よりも速く走るため」に育てられた馬を、
「ゆっくり、人と一緒に動く馬」に変えていく。
これは、簡単なことではありません。
身体も、心も、
時間をかけて少しずつ変えていく必要があります。
だからこそ、
- 骨格のリトレーニング
- 気性のリトレーニング
この両方を丁寧に行うことが、とても大切だと感じています。
まとめ|リトレーニングは馬の第二の人生
リトレーニングは、
引退競走馬にとっての第二の人生のスタートです。
人と一緒に歩き、
人を乗せ、
安心して過ごせる存在になる。
そのためには、
人間側の理解と、根気強いサポートが欠かせません。
乗馬を楽しむ私たちも、
「この馬はどんな過去を歩んできたのか」
そんなことを少し知るだけで、
馬との向き合い方が変わってくるのではないでしょうか。



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